2013年4月8日月曜日

「アンドロイドの生みの親」、モバイルの将来を語る



●「アンドロイド」の担当を外れた米グーグルのアンディ・ルービン上級副社長


日本経済新聞 2013/3/18 7:10
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO52914970X10C13A3000000/

 「アンドロイドの生みの親」、モバイルの将来を語る  

 スマートフォン(スマホ)の基本ソフト(OS)で約70%の世界シェアを獲得した米グーグルの「アンドロイド」。
 長年、同事業を指揮してきたアンディ・ルービン上級副社長が担当を外れた。
 ルービン氏は人事が発令される直前、日本経済新聞記者などのインタビューに応じ、モバイル向けOSの現状と進化について語った。
 アンドロイドの「生みの親」の目に映るアンドロイドとモバイルの将来とは――。

――アンドロイドは今年、世界最大の携帯電話見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」への出展を見送った。

 「今年は会場が(例年の場所から)変更になったので、どうなるのか様子をみようとしたためだ。
 それに、アンドロイドが何であるか、既に多くの人びとが理解しており、わざわざ大きな緑色の人形(アンドロイドのマスコット)を展示する必要がないと考えた」

 「そもそも、MWCに行くのは、パートナー企業との打ち合わせが目的。
 今年も多くのミーティングをしたし、恒例のパーティーも開いた」

■「オープンなOS」の登場は好ましい

――アンドロイドの現状は。

 「特に強調したいのはタブレット(多機能携帯端末)での成果だ。
 2011年末に『12年はタブレットの年になる』と話し、『ネクサス7』『ネクサス10』を発売した。
 両方とも大成功を収め、性能、価格の両面で業界に新たな基準を提示したと考えている」

――米モジラ財団の「Firefox(ファイアフォックス)OS」など、新たなオープンソースのOSが登場している。

 「総論としては、オープンであること、健全な競争があることは好ましい。
 そもそも私たちがアンドロイドを作ったのは、当時、オープンなOSがなかったから。
 現在はオープンなOSが増えており、うれしい」

 「端末に搭載できるメモリーの容量の制約などにより、アンドロイドが対応できない地域もある。
 特定地域では(新OSは)受け入れられるのではないか」

 「グーグル全体の視点で見ても、ウェブへのアクセスが増えること、新興国市場でネットが普及することは、(広告収入の増加などの効果があり)プラスだ。
 FirefoxOSはウェブの技術を基盤としており、当社と同じ精神を共有していると考えている」

■サムスンの独り勝ち「懸念せず」

――アンドロイド陣営の“トップバッター”である韓国のサムスン電子は、独自OS「Tizen(タイゼン)」を搭載したスマホを年内に発売する。
 アンドロイドへの脅威とならないか。


●今年の「モバイル・ワールド・コングレス」ではアンドロイドのマスコットの露出は減った(2月、スペイン・バルセロナ)

 「多くの企業が複数のプラットフォーム(技術基盤)を利用しているが、そのこと自体は極めて自然なことだと思う」

 「米アップルは自社で機器、ソフト、半導体などを手掛ける垂直統合で成果を上げた。
 これと同じモデルを試そうとするのも当然といえるだろう。
 ただ、私たちはこれだけ多くの機器にアンドロイドが搭載されたことを誇りに思っている」

――アンドロイドを搭載したスマホに占めるサムスンのシェアは40%を超えた模様だ。
 サムスンの「一人勝ち」への懸念は。

 「収益面で問題のある端末メーカーがあるのは事実だが、アンドロイドが登場する以前からこうした状況はあった。
 確かに1社、大成功している企業があるが、それはその企業の業務遂行の能力が高いからだ。
 (サムスンの突出を防ぐために)不公平な扱いをすることはない。
 ほかの企業もそれぞれ、成功の道を探るべきだ」

――昨年5月に買収手続きを終えた米通信機器大手のモトローラ・モビリティーの現状は。

 「モトローラの経営陣はリストラで成果を上げている。
 ただ、組織上はアンドロイドとモトローラを明確に分けており、アンドロイドにとってモトローラはサムスンや台湾の宏達国際電子(HTC)などと同じ、ライセンス供与先の1社にすぎない」

 「機器を共同開発する相手先として選ぶ可能性を否定はしないが、特別扱いもない。
 是々非々で対応する」

――MWCでは中国企業の躍進が目立った。将来をどうみているか。

 「MWCでは多くの中国企業ともミーティングを持ったが、商品のロードマップはしっかりとしていた。
 彼らにとっての課題は技術ではなく、ブランド力だろう。
 サムスンも少し前に同じ問題を抱えてきたが、乗り越えた。
 一部の中国勢も、かつてのサムスンと同様、消費者にブランドを訴求する努力をしている」

■独自ブランド商品の「小売店舗」は計画していない

――グーグルの独自ブランド「ネクサス」を冠した商品が増えている。
 こうした商品を展示するために、小売店を開く考えは。

 「5年前、一般的な消費者はモバイル機器になじみが薄かったと思うが、現在は違う。
 メディアの報道や友人の推薦など信頼に足る情報も多い」


●グーグルは昨年の「モバイル・ワールド・コングレス」ではアンドロイドの大規模なブースを出した(2012年2月、スペイン・バルセロナ)

 「また、多くの製品が同じプラットフォーム(アンドロイド)の上で動いており、大きな差異がなくなっている。
 通信会社の店舗などもすでにあり、当社としては小売店を出すことは計画していない」

――グーグルにはモバイル向けの「アンドロイド」とパソコン向けの「クロームOS」という2つのOSがある。
 タブレットなどでは両OSが競合する恐れもあるのでは。

 「クロームはウェブ、アンドロイドはアプリ(応用ソフト)を中心に考えており、哲学が違う。
 だが、アンドロイドのスマホとクロームのパソコンを併用する利用者も多く、両者は排他的ではない。
 また、グーグル全社の視点で見ると、複数のOSを持つことは、消費者との接点を広げられるという利点もある」

■アンドロイドの優位性、どこまで

――アンドロイドは今後も、スマホで70%という高いシェアを維持できるのか。

 「グーグルはアンドロイドをオープンなプラットフォーム(技術基盤)と考えており、それは、自らそれをコントロールする権利を放棄し、コミュニティに供与することを意味している。
 確かにグーグルはアンドロイド向けのコードを多く書いて深く関与しているが、ひとたび世に出れば誰でも改変できる。
 オープンソースの成功に業界は慣れていないが、これが現在、起きていることだ」

 「シェアは必ずしも『グーグルのシェア』と考える必要はない。
 あるのは、サムスンやLG電子、HTCのシェアだ。
 グーグルはリナックス系で、ほかにもリナックスをベースにしたモバイル向けのOSがある。
 リナックスのシェアはおそらく80%になるだろうが、そうみるべきではない。アンドロイドも同様に考えるのが妥当だ」

 (聞き手はシリコンバレー=奥平和行)