2013年4月1日月曜日

シャープ期待のIGZO、画期的技術が故の制約




●IGZOディスプレーを搭載したドコモのスマートフォン


ウォールストリートジャーナル     2013年 3月 28日 10:20 JST
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324500504578387241089338424.html
By DAISUKE WAKABAYASHI AND JURO OSAWA


シャープ期待のIGZO、画期的技術が故の制約

 【東京】間もなく創業100年の歴史で最大の赤字を発表するとみられるシャープは、まだ実績のない新技術に生き残りをかけようとしている。

 この技術は、インジウム、ガリウム、亜鉛の酸化物の略語IGZO(イグゾー)で、液晶ディスプレー(LCD)を作るために開発された酸化物半導体だ。
 これは一般的なシリコンベースのものに比べて飛躍的な新技術とみられ、スマートフォンやタブレット型多機能携帯端末の電池寿命は倍になり、画像はより鮮明に、タッチディスプレーの感度は5倍以上になるといわれる。

 奥田隆司社長は昨年11月1日の記者会見で、同社が財務状況は非常に弱く、「継続事業体」としての将来を不安視する中で、
 「IGZOはシャープを救う技術になるだろう」
と述べた。 
 この素材に大きな期待を寄せるのは奥田社長だけではない。
 調査会社NPDディスプレイサーチのアナリスト、早瀬宏氏は
 「IGZOは画期的な技術になる可能性がある」
と話している。

 シャープは、現在の銀行の貸し手が離れないようにし、バランスシート立て直しのための新たな資金源を急いで探す中で、同社が技術の面で前進しているということを証明して見せなければならない。

 同社が抱える問題は多い。
 同社は日本で最先端LCD工場を建設したが、テレビ向けLCD需要は減退した上、円高に見舞われた。
 この2年間での赤字は90億ドル(約8500億円)近くになりそうで、利付き債務の額は大きく、債務と手元現金の比率は7対1にもなっている。

 IGZOは大規模で急成長を遂げつつある市場を狙っている。
 調査会社IDCによると、昨年第4四半期(10-12月)の世界全体のスマホ出荷台数は2億1940万台と、前年同期比36%増加し、タブレットは5250万台で、75%の伸びを記録した。

 携帯端末ではディスプレーが最も電力を消費するため、IGZOは急成長を遂げるこれらの製品の電池寿命—大きな技術的ハードル—を大幅に向上させる可能性がある。
 IGZOはより大きなテレビ受像器でも使えるが、その利点である省エネ性は携帯端末に向いている。

 シャープは昨年3月にIGZOディスプレーの大量生産を開始した。
 このディスプレーは画像のちらつきを除くために常にリフレッシュする必要がないため、電力を節約できる。
 同社によると、標準的なアモルファスシリコンのディスプレーでは、画像が表示されていると、1秒間に60回のリフレッシュが必要になるが、IGZOでは1秒間に1回ですむという。

 これはIGZOを使うとアモルファスシリコンの場合よりも速く電流を流せるためだ。
 電流の流れの改善によって、トランジスターの小型化が可能になり、トランジスターが小さくなると画像の解像度が高くなる。
 同社は、省エネと高密度ピクセル(画素)の組み合わせによって、IGZOは大きな競争力を提供すると期待している。

 支援材料は他にもある。
 米アップルの「レティーナ」ディスプレーの販売の成功で、消費者は高密度ピクセルの利点に気づいた。
 当初の「iPhone(アイフォーン)」のディスプレーのピクセルは1インチ当たり163だったが、「アイフォーン5」のレティナは326ピクセルになっている。
 韓国サムスン電子の新型「ギャラクシーS4」の5インチ・ディスプレーは441ピクセルだ。

 しかし、これだけでは十分ではないかもしれない。
 シティグループのアナリスト、江沢厚太氏は 
 「IGZOは非常に競争力ある技術だ。
 しかし、IGZOだけで同社を救い、同社の全ての問題を解決するのは難しいだろう」
とし、
 「財務面での問題は大きすぎる」
と指摘した。

 この技術を使ってビジネスを作り出すのが難しいことは疑いもない。
 皮肉なことに、シャープのIGZOディスプレーが独自技術であることが同社の先行きへの制約になっている。
 大手の電子機器メーカーはしばしば、安定供給と価格面での影響力を考えて、主要な部品の全てについて少なくとも2社の納入業者を求める。

 複数の納入業者を確保し完成品の質をそろえるために、電子機器メーカーは部品納入業者の全てに共通の仕様書を提示する。
 その結果、シャープがIGZOディスプレーを完成品メーカーに販売しようとすると、そのディスプレーの能力を下げるか、あるいはライバル企業が追いつくのを待たなければならないことになる。

 同社はIGZOディスプレーを自社のスマホやタブレット、32インチの超高解像度コンピューターモニターに組み込んでいる。
 しかし、これまでのところこれらの製品は日本国内でしか販売されていない。
 早瀬氏は
 「シャープがIGZOディスプレーを世界的に販売するには、ある製品についてシャープを唯一の納入業者とする覚悟のある世界的な顧客が必要だ」
と話した。





【気になる-Ⅴ】


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