2013年5月9日木曜日

3Dプリンターは銃社会をどう変えるか:プリンターで作ったプリントアウト銃

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Liberator - Dawn of the Wiki Weapons


ニューズウイーク 2013年5月8日(水)16時12分 ウィル・オリマス(スレート誌記者)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2013/05/post-2919.php

3Dプリンターは銃社会をどう変えるか
Printout That Costs Your Life

 世界初の「プリントアウト銃」がもたらすのは銃拡散の悲劇、ではなくそれを使う者の悲劇だろう

 先週、アメリカの大学生コディー・ウィルソンが、 
 世界で初めてとされる「3Dプリンターで作った銃の使用」に成功した。

 ウィルソンが「リベレーター(解放者)」と名付けたこのプラスチック銃は、銃規制に風穴を開けかねない技術として、銃支持派と反対派の双方に論争を巻き起こしている。
 ウィルソンが立ち上げたNPO法人ディフェンス・ディストリビューテッドのウェブサイトでは、この銃の製造方法が掲載されていて誰でもダウンロードできる。 
 つまり、家にいながら銃を「プリントアウト」することができるのだ。

 警察官など治安を守る側にとってやっかいなのは、プラスチック銃は金属探知機に反応しないこと。
 セキュリティーが厳しい建物への持ち込みも考えられる。

 ただ実際は、銃全体が3Dプリンターで作られているわけではない、とウィルソンは言う。
 アメリカの連邦法は、金属探知機に反応しない銃器を禁止しているため、ウィルソンはあえて何の機能も果たさない金属を銃に取り付けている。
 もちろん自宅の3Dプリンターで銃を作る時には省くこともできるが、その銃はあくまで違法だ。

 また近年は空港のセキュリティーチェックでも金属探知機よりもX線スキャナーを使うことが多く、純プラスチック製だったとしても金属製の銃と同じように形でバレてしまうだろう。

 それに、3Dプリンターでは製造できない部品がもう1つある。
 火薬を起爆させるために必要な部品である撃針だ。
 「いろいろな種類のプラスチックで試したけどね」とウィルソンは言う。
 「どれも柔らかすぎて雷管に当たった衝撃で変形してしまう」

■銃を自宅で作る選択肢

 だがウィルソンにとってそんなことは問題ではない。
 彼の目的は、金属探知機に反応しない銃を作る事ではない。
 「この銃はたまたまプラスチック製だったというだけ」
とウィルソンは言う。
 「(自宅の3Dプリンターで)金属製の銃を作ることができたら、同じように興奮するね」

 だが、このリベレーターを使って犯罪を犯すのは考えものだ。
 うまく発射しないのだ。
 IT系のブログサイト、テッククランチのジョン・ビグスはこう説明する。
 「この銃はピストルというより単純な手製の銃だ」。
 自分の面前で暴発することなく何度も撃てるピストルに比べれば、粗雑で信頼もおけない単発銃だと言う。

 それでもウィルソンが使った3Dプリンターはeベイで10000万ドルもする。
 もっと安いメーカーボット社のもあるが、暴発リスクをお忘れなく。

 ウィルソンは、銃を自宅で作る選択肢をもたらした。
 彼はウェブサイトを通じて3Dプリンター製の銃を広めようとしている。

 幸い、「自家製の銃」が現実的な武装オプションになる日はまだ遠い。
 その前に、この銃を使って犯罪を犯そうとする人は、おそらく彼自身が最初の犠牲者になっしまうだろう。

© 2013, Slate



マイナビ・ニュース  [2013/05/08]
http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/terrafor/2013/05/3d-12.html

【海外:アメリカ】
3Dプリンターで出力して作るプラスチック銃の試験発砲が成功する

 3Dプリンター技術を使ってプラスチックで作る銃『リベレイター(Liberator:解放者)』は、すべての人に銃の製造・密輸を可能にしてしまった。

 リベレイターは、一見、危険な武器というよりは、ヘアドライヤーのようにしか見えない。
 だが実際には、3Dプリンターを使って作ることができる銃だ。

 製造しているのは、『ディフェンス・ディストリビューテッド(Defense Distributed)』という団体で、週末にアメリカ・テキサス州オースティン近くで最初の試し撃ちを行った。
 団体は、銃の設計図をインターネットで公開し、誰もがそれをダウンロードして3Dプリンターで印刷して銃を作れるようにする、と公言した。

 「銃器を持つことができない国家が世界中にありますが、それはもう現実ではありません。
 テクノロジーで欲しいものすべてを手に入れられるということを、私は世界に証明します。
 我々が作り出したものが、他の人々を傷つけることに使われるかもしれないことは認識しています。
 これは、銃ですから。
 ですが、それは銃を持たない理由にはならないと思います。」
と団体の代表コディ・ウィルソン氏は説明している。

アメリカでは、コネチカットの小学校で銃の乱射事件が起きて以降、銃の規制を巡る問題が活発化してきているが、一方で銃の所持に賛成を示す人々が根強くいるのも事実だ。

 民主党のチャック・マシュー上院議員は、
 「今や誰もが―テロリストも、精神疾患を患っている人も、家庭内暴力夫も、犯罪者も、誰もが自宅のガレージで銃器製造工場を開くことが出来るようになってしまいました。
 これは、なんとしてでも止めさせなければいけません。」
と話している。

 いずれこの銃で、一つの尊い命が失われる日が来るのだろうか。
 もしそうだとしたら、最先端テクノロジーの結果は、あまりにも悲しすぎる。
 マシュー上院議員の言うように、なんとしてでも阻止すべきだ。

【記事:りょーこ】
参照元:Mirror




日本経済新聞 5月10日(金曜日)
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO54574920R00C13A5000000/

 米で波紋、「3Dプリンター銃」開発者に聞く
ほぼ100%製造可能「日本からも反響多く」

 3D(3次元)の設計データを入力すれば、印刷するような感覚で立体物がつくれる3Dプリンター。
 オリジナルの小物から実物大の家まで、作り手の夢は広がるが、物議を醸している「ものづくり」もある。
 米テキサス州の非営利団体ディフェンス・ディストリビューテッドが進める「3Dプリンター銃」の普及プロジェクトだ。


●3Dプリンターで作った「レシーバー」と呼ばれる部品を装着したAR-15ライフル。2月に公開されたテスト映像では、600発以上の連射に成功した(Defense Distributed提供)

 同団体は、ライフル銃などの主要部品の設計図を開発してインターネット上で公開。
 コンピューターと3Dプリンターがあれば、誰でも自由に設計図をダウンロードして部品を複製できるようにした。

 3Dプリンター製の部品を使った銃も、本物と同じように発砲することができるため、憲法で武器を携帯する権利が認められている米国でも波紋が広がっている。

 米ワイヤード誌が「世界で最も危険な15人」の1人に選んだ開発責任者、コーディー・ウィルソン氏にプロジェクトの狙いや国内外の反応などを聞いた。

■設計データ、世界100カ国から80万ダウンロード

 ――「ウィキ・ウエポン」と名付けたプロジェクトを始めた理由は。

 「1年ほど前、友人と長電話しているときに思いついた。
 3Dプリンターについても、銃についても特に詳しかったわけではない。 
 3Dプリンターで作れる銃を設計し、それをネットで公開したら、どうなるか。
 技術が進歩し、誰でもオンデマンドで銃を手に入れられるようになったら、社会はどう変わるか。それを確かめるために立ち上げた」

 ――進捗状況は。

  「ほぼ100%の部品を3Dプリンターで作れるメドがついた。
 設計データは自分のコンピューターに入っている。 
 テストでうまく動作すれば、近く公開する予定だ。 
 唯一、作れないのが撃針。 
 プラスチックでは十分な強度が得られない」

――反響は。

 「あらゆる方面から反響があるが、特に若者には評判がいい。
 これまでに我々が運営するファイル共有サイト経由だけで世界100カ国以上、合計80万件近くの設計データがダウンロードされた。 
 米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、オーストラリアが中心だが、日本からのダウンロードも6万件を超えている。
 プロジェクトに興味を持った日本人からメールをもらったこともある。
 彼らがダウンロードした設計データを使って、実際に銃の部品を作ったかどうかはわからないが、ほかのファイル共有サイトに我々の設計データをアップロードするなどして、普及に一役買ってくれている」

■若者から評判、国内外での懸念は「もっとも」

 ――日本のように銃の所持を法律で禁止している国はもちろん、米国でもプロジェクトへの風当たりは強い。

 「オーストラリア政府がカンカンに怒っているのは知っている。
 米国でも(金属探知機に引っかからないプラスチック製銃を規制する)新たな法案が下院に提出された。 
 我々のプロジェクトが注目されている証拠だが、それ以上のコメントはない」

 ――米国の反対派は自宅で簡単に作れる「3Dプリンター銃」が普及すれば、これまでなら銃を持てなかった危険人物の手に銃が渡り、昨年12月にコネティカット州で起きた銃乱射事件のような悲劇が増えると懸念している。

 「その懸念はもっともだ。
 3Dプリンターがより手ごろな価格で買えるようになれば、これまで銃を持てなかった人や自分で作ろうと思わなかった人でも、容易に銃を手に入れられるようになるだろう」

 「だが、そういう議論をする人々は、権利(武装権)を乱用して人に危害を加える可能性は、誰にでもあるという事実と向き合いたくないだけだ。 
 危害を及ぼす可能性の有無にかかわらず、与えられている権利は守られるべきだというのが、我々の立場だ。 
 さらに言えば、危害を受ける可能性があるからこそ、権利は保障されるべきだと思う」

■3Dデータ共有のサイト運営へ移行

 ――今後の計画は。

 「実は月内にもプロジェクトをたたむつもりだ。 
 3Dプリンター銃のプロトタイプがよほど好評で、より多くの資金が集まるなら、もうしばらく続ける可能性もある。
 ただ、個人的にはこれ以上できることは多くないと考えている。 
 構造やデザインが異なる銃はいくらでもあるが、それは他の人に任せたい」

 「今後は3Dプリンター銃の設計データを含め、あらゆる3Dデータを共有するために立ち上げたサイトの運営に力を入れる。
 専用の検索エンジンの開発も進めており、多少のお金にはなるかもしれない。 
ただ、これはあくまで政治的な信条に基づくプロジェクトで、金もうけが目的ではない」

■《銃乱射事件で逆風、「世界で最も危険な15人」》


●ニューヨーク市内でインタビューに答えるコーディー・ウィルソン氏

 テキサス大学法学部の学生であるウィルソン氏が率いるディフェンス・ディストリビューテッドへの逆風が強まったのは、昨年12月にコネティカット州の小学校で多くの児童が犠牲になった銃乱射事件以降だ。

 事件後すぐに、3Dプリンターを製造するメイカーボットは運営する3Dデータの共有サイトから、銃関連の設計データを削除。
 ニューヨーク州選出の下院議員は3Dプリンター銃を規制する法案の成立を精力的に働き掛ける。

 もっとも、ウィルソン氏にひるむ様子は全く見られない。
 むしろ、メイカーボットの行為を「検閲だ」と批判。
 自ら3D設計データの共有サイトを立ち上げて対抗した。

 シリアのアサド大統領らとともに「世界で最も危険な15人」に選ばれたことについて、ウィルソン氏は不敵な笑みを浮かべながらこう答えた。 
 「買いかぶりすぎだと思うが、ほめ言葉として素直に受け止めたい」。

 (ニューヨーク=小川義也)







ロイター 2013年 09月 20日 15:51 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE98J04320130920

焦点:3Dプリンターに期待と現実のかい離、製造業以外に大きな潜在市場



[東京 20日 ロイター] -
 立体物を容易に成形できる3Dプリンターが市場で話題となっている。
 新たな産業革命をもたらすとの期待が高まっているが、業界関係者からは過熱しすぎとの声も多い。
 遅い成形時間、狭い用途など現時点では大量生産に使うには課題が多いためだ。

 ただ、製造業以外にこそ大きなマーケットが潜んでいるとの指摘もある。
 世界的な開発競争に負けないためにも人材育成が欠かせない。

■<関連企業の株価は2倍、3倍に>

 「ジー、ジー、ジー」──8月2日から3Dプリンターの販売を開始したヤマダ電機のフロアで米国の3Dシステムズ社製のパーソナル3Dプリンターが微かな音を響かせていた。
 プリントヘッドから出る樹脂が一層ごとに積み上げられていくのを、みな静かに見守っているが、関心の高さから、広い売り場には客足が絶えない。

 株式市場でも関連銘柄が人気化している。
 日経平均.N225は5月後半から急落したが、群栄化学工業は5月28日の終値228円から7月11日に一時710円と3倍以上、上昇し逆行高となった。
 同社は鋳造用3Dプリンターの開発で経済産業省から委託を受けた企業の一つとして、期待を集めている。

 海外製3Dプリンターを販売するMUTOHホールディングスの株価は5月下旬から8月高値まで約2倍に上昇。
 3Dスキャナーを展開するパルステック工業も同4倍と大幅高を演じている。
 「直近ではやや下火だが、関連銘柄は高値圏を維持している。
 成長戦略の一環でもある3Dプリンターは折に触れ物色されやすい」(東洋証券ストラテジストの檜和田浩昭氏)という。

■<動き始める官民連携での開発>

 3Dプリンターは、一般的に3次元のデータをもとに樹脂や金属、石膏、砂などを一層づつ固めながら積み上げることによって立体物を製作する装置だ。

 切削や射出成型、プレス加工など従来の製造技術では難しい複雑な形状の立体物を継ぎ目なく成形できることができる

 オバマ米大統領が2013年2月に3Dプリンターを製造業復活の切り札として掲げ、世界的なブームが沸き起こっている。
 日本でも官民連携での新型3Dプリンター開発が動き始めた。
 経済産業省は8月30日、来年度予算案の概算要求に次世代3Dプリンターの開発プロジェクトにかかる経費として45億円を盛り込んだ。
 今年5月には経済産業省が産業技術総合研究所やシーメット、群栄化学工業など12社に対し、複雑形状の鋳造用砂型を作成できる3Dプリンターの開発を委託している。

 経産省・素形材産業室室長補佐の大胡田稔氏によれば、
 次世代3Dプリンターは速さで従来の10倍、精度で同5倍を実現するとともに、加工しやすい金属素材や高精度な3次元スキャナーの開発を目指すという。
 「海外製に比べ、価格を10分の1に抑えることで幅広い鋳造業者への導入を促し、約1300億円と見込まれる複雑形状の鋳造市場に3Dプリンターを浸透させたい」
と大胡田氏は意気込む。

■<大量生産には課題多く>

 だが、当の業界からは冷静な声が多い。
 最新の製品でも5センチ四方の部品を作り上げるのに約1時間かかるなど、大量生産にはまだブレークスルーが必要なためだ。
 また、複雑な形状を持たないものであれば、3Dプリンターを用いる必要はない。
 鋳造業界の生産高は2兆円だが、経済産業省が見込む3Dプリンターの参入規模は1割に満たない。

 「3Dプリンターで機械的強度を保った最終製品を製作できるまでには、まだまだ時間がかかる。
 複雑形状の鋳型の作成がメインである限り、鋳造業への影響は軽微」
と日本鋳造協会・専務理事の角田悦啓氏は話す。

 鋳造業の根幹を担う技術の伝達が困難なことも鋳造革命に至らない一因だ。
 アルミ鋳造と3Dプリンターを展開するジェイ・エム・シー(横浜市)の代表取締役、渡邊大知氏は
 「長年にわたって培った価値あるアナログな技術をデジタル化しない限り、3Dプリンターという装置を開発しても使いようがない」
と指摘する。

 3Dプリンターの技術は古く、その始まりは1980年4月に名古屋市工業研究所の小玉秀男氏が発明した光硬化性樹脂に紫外線をあてて造形する技術といわれる。
 87年には3Dシステムズが初めて商用化し、製造業のプロセスにはすでに20年以上組み込まれてきたが、「産業革命」には至っていない。

■<新たな用途見いだせる人材が必要>

 実は、成長が期待されているマーケットは製造業ではなく、非製造業にある。
 大量生産には向かない非製造業にこそ、3Dプリンターが発展する余地があるという。

 芝浦工業大学大学院工学研究科・教授の安齋正博氏は
 「高精度な3Dプリンターを導入し、すでに確立されている製造業のプロセスの一部を置き換えるのはナンセンス。
 製造業にこだわる必要はなく、医療やアパレル、食品など他業種と結びつけることが重要だ」
と指摘する。

 米調査会社ウォーラーズ・アソシエイツは、
 3Dプリンターの世界の市場規模は2021年に108億ドル(約1兆0900億円)と12年実績比で約5倍に拡大するとの予測を示している。

 そのために欠かせないのが人材育成だ。
 既存の製造装置を置き換えるのではなく、新たな用途を見出すためには、新鮮なアイデアと技術を持った人材が必要になる。
 「教育現場に3Dプリンターが導入され、10数年後に柔軟な頭脳を持つ人々が第一線に立てばイノベーションが起こるかもしれない。
 そのとき産業構造が変革する可能性はある」
と、ジェイ・エム・シーの渡邊氏は述べる。

 米国ではオバマ米大統領が2012年8月、民間企業や大学機関、非営利団体などで構成された全米積層造形技術革新機構(NAMII)を設立した。
 また、今後4年間で1000カ所の学校に3Dプリンターなどを完備した「工作室」を開く計画も打ち出している。

 欧米に続き中国やシンガポールなど新興国も相次ぎ参戦するなか、日本の対応は急務だ。
 「海外からの視点だと、日本の3Dプリンター市場は生産拠点というより販売市場との見方が強い
と日本貿易振興機構(JETRO)の海外調査部北米課長、黒川淳二氏は指摘する。

 開発競争に乗り遅れてしまえば、3Dプリンター市場も海外勢の「草刈り場」になってしまうおそれがある。





【気になる-Ⅴ】


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