2013年10月8日火曜日

米国の政府閉鎖:こんな国家運営はあり得ない

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●暫定予算が成立せず、政府機関の一部が閉鎖された〔AFPBB News〕


JB Press 2013.10.07(月)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38860

米国の政府閉鎖:こんな国家運営はあり得ない
(英エコノミスト誌 2013年10月5日号)

自由の国が、統治不能に陥りかけているように見える。もうたくさんだ。
米政府機関の一部閉鎖、情報機関の活動に「損害」 国家情報長官

 9月30日深夜、米国議会では、目前に迫った連邦政府機関の閉鎖について、誰もがほかの誰かを責めていた。
 どうなるのかと事態を見守っていた世界にとっては、非難の応酬は的外れだった。
 崖っぷちで揉めている時にまず問うべきなのは、
 「誰が正しいのか?」
ではなく、
 「一体こんな崖っぷちで何をしているのか?」
であるはずだ。

 政府機関の閉鎖自体は、困ったことではあるが、耐えられないものではない。
 治安関連の業務は継続されるし、年金も通常通り支払われる。
 国際宇宙ステーションの宇宙飛行士が呼吸できなくなることもない。

 280万人の連邦職員のうち、必要不可欠ではない業務についているおよそ80万人が自宅待機となり、さらに130万人が無給での勤務を求められている。
 暫定予算が成立し、資金の流れが回復するまでの間、不要不急の業務は休止されることになる。

 予算がすぐに成立すれば、経済的なダメージはそれほど大きくならないはずだ。
 恐らく、閉鎖1週間につき第4四半期の経済成長率が0.1~0.2%下振れする程度だろう。

 問題は、今回の閉鎖がもっと根深い問題の症状だということだ。
 すなわち、連邦議会が極端に二極化するあまり、麻痺状態に陥っていることだ。
 しかも、民主党と共和党が10月17日までに溝を埋められなければ、最悪の事態が訪れることになる。

 予算を巡る争いは、珍しいことではない。
 実際、連邦議会は1997年以降、正式な予算を期限内に1度も可決していない。
 だが、今回の争いは、新しい事態を表している。
 下院を支配する共和党が予算の成立を阻止しているのは、予算の内容に反対しているからではなく、全く別の争点に反対しているからだ。
 つまり、10月1日に主要部分の運用が開始された、バラク・オバマ大統領の医療保険改革(オバマケア)である。

 共和党の当初の要求は、オバマケアの財源をすべて奪い取ることだった。
 言い変えれば、自党出身の大統領の最大の成果をつぶすことを民主党に同意させようとしていたわけだ。
 民主党が同意するはずがない。

 予算成立の期限が迫ると、共和党は要求を後退させた。
 オバマケアの財源を奪う代わりに、オバマケアによる医療保険加入の義務づけ条項(加入しなければ罰金が科せられる)の1年延期を求める戦術に転じたのだ。

■予算の瀬戸際交渉がもたらす破滅

 その戦術は比較的穏当なように思えるが、2つの理由から、穏当とは言えない。

➀.第1の理由は、保険加入の義務づけを延期すれば、医療保険改革全体が破綻する恐れがあることだ。
 オバマケアは2本の柱に支えられている。
 1本目の柱は、全国民に対する保険加入の義務づけ。
 そして2本目の柱は、病歴を理由にした保険料の差別化を保険会社に対して禁じることだ。

 2本目の柱しか適用されなければ、病気を持つ人が大挙して加入する一方で、健康な人は病気になるまで加入を先送りするだろう。
 保険会社は、保険料を引き上げなければ経営が成り立たなくなる。
 多額の補助金なしには保険金が支払われなくなる。
 オバマケアは破綻のスパイラルに陥り、恐らく崩壊するだろう。
 一部の共和党議員にとっては、それこそが狙いなのだ。

②.第2の理由は、いま共和党議員が行っているやり方が今後の先例となるなら、米国は統治不能に陥ってしまうからだ。
 米国の有権者は、政府の一翼(下院)の支配権を共和党に与えることを妥当と判断したが、ホワイトハウスと上院の支配権は民主党に与えている。

 その程度にしか信認されていない党が、気に食わない法律を撤回しなければ政府機関を閉鎖するなどと脅せるようでは、合意がまとまったかに見えた法律でも、いつでも少数派により覆せるということになってしまう。
 ワシントンは恒久的に機能不全に陥り、米国は慢性的な不確実性を背負い込むことになる。

 事態はさらに悪化する。
 連邦政府の債務は、10月中に法定の「債務上限」に達する見込みだ。
 議会が上限を引き上げなければ、米国は遠からず、すべての支払い義務には応じられなくなる。
 言い換えれば、両党が協調できなければ、米国はどの支払い義務を不履行にするか選択せざるを得なくなる。

 歳出を大幅に削減し、景気後退を招く選択もある。
 もう1つは、債務をデフォルトすることもできる。
 後者の方がはるかに悪い結果を招き、政府機関の閉鎖どころではない、想像を絶するほどの害を及ぼすだろう。
 それほど常軌を逸した者は、まさかワシントンにはいないはずだが、どうだろうか?

■崖っぷちから引き返せ

 米国は世界の準備通貨を刷るという「法外な特権」を享受している。
 米国債は安全な投資先と見なされている。
 だからこそ、米国はこれほど安い金利で、これほど多額の金を借りることができる。
 そうした利点が、一夜にして失われることはないだろう。

 だが、なんらかの理由で信用度が傷つけば――ワシントンの茶番劇は間違いなくその理由の1つ――将来的に測り知れないダメージを受ける恐れがある。
 それは単に、米国が借り入れを行う際に、今以上の金利を払わなければならなくなるというだけではない。
 米国のデフォルトの影響は、全世界に及ぶ予測不可能なものになるだろう。

 デフォルトとなれば、金融市場に危険が及ぶ。
 米国債は、極めて流動性が高く安全な債券であるため、担保として広く利用されている。
 翌日物資金の調達の場である2兆ドル規模の「トライパーティー・レポ」市場において、投資銀行などの金融機関が借り入れの際に利用する担保の30%以上が米国債だ。

 デフォルトになれば、貸し手はさらに多くの担保や異なる種類の担保を要求するようになるだろう。
 それにより、2008年のリーマン・ブラザーズ破綻で生じたような、金融市場の心臓発作が起きる恐れがある。

 要するに、たとえオバマケアがティーパーティー派の言うほど悪いものだとしても、一部の共和党議員が主張しているように、債務上限を盾にその撤回を求めるのは、あまりにも無謀だ。

 では、どうすればいいのだろうか? 
 短期的には、共和党の下院議員は優先順位を整理すべきだ。
 オバマケアを巡る古い戦いを蒸し返さずに、きちんとした予算案を可決しなければならない。
 債務上限の引き上げ(廃止ならなお良い)に賛成する必要もある。

 オバマケアが本当に大失敗なら、共和党は2016年の大統領選と上院選に勝利し、通常の立法手続きに則って、オバマケアを撤回することができるはずだ。

■選挙制度の見直しも必要

 長期的には、米国は二極化という問題をどうにかしなければならない。
 この問題は、下院では特に深刻だ。
 というのも、多くの州では、各州の政治家が下院選挙区の区割りを決めているからだ。

 当然のことながら、政治家は自分たちにとって最も安全な区割りをする傾向がある。
 そのため、一般的な下院議員は、本選挙での敗北を心配することはないが、党内の予備選の対立候補に脅威を感じている。
 その結果、議員の多くは、他党との間で分別のある中道的な妥協点を模索するのではなく、自党内の過激派に迎合するようになる。
 これはまっとうな国の統治方法ではない。

 区割りを第三者機関に委ねるなどの選挙制度改革を実行しても、すぐに米国が統治可能な状態に戻ることはないだろうが、効果はあるだろう。
 米国はもういい加減、崖っぷちでの綱渡りを減らし、もっと良識を発揮すべきだ。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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